Zoteroは、iPadで付けた注釈をどう扱うか

Zoteroの注釈形式には手書きのための欄があります。多くの文献管理ツールには無いものです。それがiPadで論文を読み、書き込むときに何を意味するのか。

iPadで一文に線を引いた。その線は今どこにあり、ノートパソコンで同じ論文を開いたときにも残っているのでしょうか。

Zoteroの場合、その答えは他のほとんどの環境より良好です。理由は形式の細部ひとつにあります。

Zoteroは何を注釈として保持するか

ZoteroのPDFリーダーには、ハイライト、下線、ノート、領域選択、そして描画の道具があります。どれもライブラリに注釈として保存され、他のデータと一緒に同期されます。

興味深いのは最後のものです。Zoteroのink注釈は、描いた場所を囲む矩形ではなく、ストロークそのものを記録します。ペンが通った軌跡と、描いたときの太さを、そのページ上の情報として持ちます。

実装の細部に聞こえるかもしれません。ですがこれは、手書きがライブラリの一部になるか、ただの画像になるかの分かれ目です。

手書きのための欄があることの意味

多くの文献管理ツールは、注釈を「型+ページ上の矩形」として設計しています。テキストに対してやること——範囲に印を付ける、ある地点にノートを留める——にはよく合っています。ただ、曲がる線を記述する手段がありません。

Mendeleyが分かりやすい例です。注釈モデルはハイライト・付箋・下線で構成され、それぞれ矩形で位置づけられます。手書きにあたる型は存在しません。Mendeleyのライブラリで手書きを残すには、注釈モデルの外に保持するか、ファイルに焼き付けるしかありません。(詳しくはMendeleyのPDFにiPadで注釈を付けるで扱っています。)

Zoteroは違う設計を選びました。手書きが一級の注釈型なので、iPadで書いた手書きが、他の印とまったく同じ物でいられます。同期され、文献に属し、後から削除も編集もでき、デスクトップにも現れます。

ペンで読む人にとって、これは2つのライブラリの間で最も結果を左右する違いです。

Zoteroの純正リーダーで書いた場合

Zoteroのリーダーで付けた印は、定義上そのままZoteroの注釈です。同期され、他の端末にも現れ、取り残されるものはありません。以降の話は、これを基準にした比較になります。

別のPDFアプリで書いた場合

添付ファイルをダウンロードし、別のアプリで開いて書き込む。

その印は、そのアプリの中にある、そのファイルのコピーに属します。Zoteroはそれを知りませんし、ライブラリの文献が指しているのは書き込みの無いほうです。焼き付けたコピーを書き出して添付し直せるリーダーもありますが、焼き付けられた注釈は印の画像であって印ではありません。検索も、色での絞り込みも、編集もできません。

1学期分の書き込みが、気づかないうちに間違った場所に溜まっていく経路です。

同期するアプリで書いた場合

Zoteroアカウントにサインインするアプリは、デスクトップと同じAPIを通して注釈を作れます。iPadで引いたハイライトはライブラリのハイライトになり、Apple Pencilのストロークは、その軌跡を持ったink注釈になります。

ペンの線まで記述できる形式であることの意味がここに出ます。iPadのアプリと机の上のアプリが、同じ種類の物を書いている、ということです。

手書きがZoteroの注釈になれない、唯一の場所

例外が1つあります。アプリの制約ではないので、理解しておく価値があります。

Zoteroのink注釈はページ座標に紐づいています。7ページ目のこの位置にあるストローク、という形です。これにはページが必要です。ところが2カラムの論文を1カラムに流し込むと、テキストはもう元のページの配置ではありません。画面に合わせて、選んだ文字サイズで流し直されています。その上に引いた線には、記録すべきページ座標が存在しません。ページの上に描かれたものではないからです。

そのため、流し込まれたテキストの上で書いた手書きは、Zoteroのink注釈にはなれません。別の方法で保持する必要があります。PDFのページに直接書いた手書きにはこの問題がなく、通常どおり同期されます。

Rectolyはどこに入るか

Rectoly for Zotero はZoteroアカウントにサインインし、本物の注釈を書きます。ハイライト・下線・ノートはライブラリに入り、PDFページ上のApple Pencilのストロークは Zoteroのink注釈になります。Zotero純正のリーダーが作るのと同じ物で、デスクトップにも現れます。

Reading Mode で書いた手書きは、先ほどの例外にあたります。保存すべきページ位置が無いので、ZoteroではなくiCloudを通じて自分のApple端末のあいだを行き来し、JSONで書き出すこともできます。失われはせず、1台の端末にも縛られません。ただ、Zoteroの形式が収められる物ではない、というだけです。

オフラインで付けた印は端末に保存され、再接続時に送られます。同期でその論文の手書きの大半が消えそうなとき、あるいは2台の端末が食い違ったとき、Rectolyは黙って処理せず止めて知らせます。

よくある質問

Apple Pencilの手書きはZoteroに同期されますか?

PDFのページに描いた手書きは、ink注釈として同期されます。他の注釈と同じようにデスクトップに現れます。流し込まれたテキストの上に描いた手書きは同期されません。記録すべきページ位置が無いためです。

デスクトップで付けた注釈はiPadで見えますか?

読み込みにも対応したアプリなら見えます。注釈はアプリのデータではなくライブラリのデータです。

別のリーダーで書き込んだ印を、後からZoteroに入れられますか?

注釈としては入れられません。焼き付けたコピーを添付することはできますが、出来上がるのは印の画像であって、Zoteroが検索したり編集したりできる印ではありません。

Mendeleyでは違うのですか?

違いますし、手で書く人にとってはそこが最大の差です。Mendeleyの注釈モデルには手書きの型が無いので、手書きはそもそもMendeleyの注釈になれません。詳しくはMendeleyのPDFにiPadで注釈を付けるにあります。

おわりに

文献管理ツールは普通、引用スタイルと保存容量で比較されます。ペンで読む人にとって、より役に立つ問いは「自分が描くものの形が、その形式にあるか」です。

Zoteroにはあります。数年分の書き込みをどこに置くか決める前に、知っておく価値のあることです。

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